2015年9月2日水曜日

ホーラ -死都-

書名⇒ ホーラ -死都-

著者⇒ 篠田節子

出版社⇒ 文藝春秋

分類⇒ 文学(幻想小説)

感想⇒ タイトルの「ホーラ」というのはギリシャ語で、「その地域の中心」という意味だそうですが、この物語の舞台はエーゲ海の小島で、そこへ逃避行のような旅行でやってきた不倫関係にある日本人の男女が、「ホーラ」と呼ばれる廃墟から発せられる魔力によってなのか、不可思議な出来事に遭遇してゆくというストーリーになっています。
ホラー小説ですが、恐怖が主題ではなく、不倫関係にある主人公の罪の意識や心の葛藤が、超常現象やギリシャ正教の信仰、そして舞台となっているその小島の混沌と堕落の歴史などと絡んで描き出されているところにこの作品の文学的香りが感じられます。
以前にも書きましたが、私にとって幻想小説における幻想的な描写こそ文学的な表現が最大に発揮されているところで、文章表現の技工が凝らされた文学を堪能できる場面でもあります。
本書の著者もその文体や文学的表現の確かさによって幻想場面や主人公の心の動きを見事に描き出していて、文学としての面白さを味わうことができました。
ストーリーとしては最後は釈然としない終わり方ではありますが、映画などのようなすっきりした終わり方ではなく、必ずしもハッピーエンドとはならない現実を描いていて、それがよりリアルな読後感を残しています。