2016年9月30日金曜日

ルドヴィカがいる


書名⇒ ルドヴィカがいる  

著者⇒ 平山瑞穂 

出版社⇒ 小学館
 
分類⇒ 文学(ミステリー小説)

感想⇒ 長い間ブログを放置してしまいましたが、いろいろと雑用があってなかなかブログを書く暇がありませんでした。
それでも本は忘れず読んでました。どんなに忙しくても、私にとって本を読むというのは生きる上で必要な行為なのです。
それで一段落ついたので、久しぶりに読書感想を書いておきます。

私が思うには、近頃の軽めの文体・文章が多い日本文学界において、珍しく濃い言葉を紡ぎだす本格的な文学者と呼ぶに相応しいと思えるのが本書の著者なのです。
 私が著者の作風に傾倒しだしたのは『全世界のデボラ』という幻想小説を読んでからで、幻想小説こそこの作者の文学性が遺憾なく発揮されるジャンルではないかと思っていました。
ただ、残念なのは、この著者が幻想小説をあまり書いていなくて、恋愛小説が作品に多いということで、私は恋愛小説には関心 がないので他の作品を読んでなかったのです。
そんな中で、本書は題名の珍しさに惹かれて手に取りました。
そして本の帯には「ファンタジーともミステリーともいえる不思議な感覚」と書かれてあり、これは「当たりかな」と思って読み始めたのです。
 確かに内容はファンタジーのようなミステリーのような不可思議な感覚の作品でしたが、それと相まって私が惹かれたのはやはりこの作者の変幻自在な言葉の力にありました。
実際、話の筋はどうでもよく て、言葉を読むということ自体を楽しんだという方が当たっています。
そして言葉の1つ1つを噛み砕きながら読んでいる内にいつの間にか物語が終わってしまったという感じです。
読み終えて「これぞ文学」と言える作品でした。




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2016年4月9日土曜日

遠い時間

書名⇒ 遠い時間

著者⇒ 横山伸子  

出版社⇒ 宝文館出版

分類⇒ 文学(詩)

感想⇒ 久しぶりに詩を読んだので感想を記します。
一読して、幻想的な情景を特徴とする不思議な感覚の詩集だと思いました。
ただ、詩というのは小説と違って説明の部分を削ぎ落としているので、意味がよく解らないところも多いんですが、この作品にはそういった意味などを不要とする不可思議な抒情性がよく伝わっており、それだけで詩の楽しさを堪能することができました。
詩というものは直感的に伝わるものですから、説明などは不要であり、余計な説明を削ぎ落としているからこそ得られる文学の余韻というものが胸の内にいつまでも残るのだと言えます。






 



2016年1月16日土曜日

半島を出よ

書名⇒ 半島を出よ

著者⇒ 村上龍

出版社⇒ 幻冬舎

分類⇒ 文学(近未来小説)

感想⇒  少し遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
かなり長い間ブログ更新が止まってしまいましたが、これからも読書感想を書き続けていきますので、よろしくお願い致します。
では今年最初は村上龍の『半島を出よ』上下巻の感想です。
村上龍と言えば、私は若い頃にデビュー作で芥川賞受賞作の『限りなく透明に近いブルー』を読んだことがあるのですが、その作品には正直言って好感を持てませんでした。
文学作品としての質は良いのかも知れないのですが、その頃の私は文章表現よりもストーリーの内容で評価する傾向にあったため、退廃的で暗い印象の内容に好感が持てなかったのです。
それは作者の村上龍がその作品を監督して映画化したとき、主演した俳優の三田村邦彦も私と同じ思いを抱いたようで、その映画に出演していても「こんなの文学じゃない!」と言って反発していたと、後にテレビ番組で語っていました。
また、私の場合、その村上作品を読む前に下村湖人の『次郎物語』を読んでいて、同じ青春小説でも、両作品のあまりの内容の違いに、村上龍の小説に好感が持てず、それが作者にも好感が持てなくなり、それ以後、村上龍の作品は読んでませんでした。
それから長い年数が経ってから、本書の『半島を出よ』という北朝鮮を扱った小説を出したと知り、これまで私が抱いていた村上龍のイメージと違うように感じて読んでみようと思ったのです。
それに北朝鮮は何かと話題になり、私も関心 があったので、いったい村上龍がどんな内容に仕上げているのかと興味が湧いてもいたからです。
それで本書を読み始めたのが2008年の夏からで、途中、他の本と併読しながら、去年の暮れ近くにやっと読み終えました。実に7年半近くかかってやっと読了したというわけです。
読んだ感想はと言うと 、私が今まで抱いていた村上龍のイメージがこの作品で払拭されました。
北朝鮮の反乱軍が九州に上陸して福岡を占拠していくという内容の小説ですが、実にリアルに描写したその表現力、文章力がすごいと思いました。
その描写力は、どうでもいいようなことまでも丹念に事細かく書き込んでいくことによってリアリティを増していて、単なる絵空事とは思えなくなるほどの現実感と実在感を得ました。
昔の私だったら、こんな分厚い2冊の本を読んでいると途中で読むのに飽いてしまうところなのですが、本書は読んでいて全く飽きませんでした。
それはその丹念な描写力による現実感と緊迫感に依るところが大きいのだと思います。

また、著者はこの作品の中で、北朝鮮人を日本人側から見た敵国人という書き方ではなく、北朝鮮人に対しても同じくその生活や人間性などをあくまでも日本人に対するのと同じ目線で丹念に描写しています。
私たち日本人からすれば北朝鮮という国は得体の知れない国であり、北朝鮮人もまた得体の知れない人間のように思ってしまいがちですが、著者は北朝鮮人もまた同じ人間という存在として描いています。つまり、単なる悪者として描いているわけではないということです。
そこがまたこの作品にリアリティを与えているところだと言えるでしょう。
それにしても、私のような素人が偉そうな言い方になってしまいますが、この作品で村上龍を見直しました。





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