著者⇒ 村上龍
出版社⇒ 幻冬舎
分類⇒ 文学(近未来小説)
感想⇒ 少し遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
かなり長い間ブログ更新が止まってしまいましたが、これからも読書感想を書き続けていきますので、よろしくお願い致します。
では今年最初は村上龍の『半島を出よ』上下巻の感想です。
村上龍と言えば、私は若い頃にデビュー作で芥川賞受賞作の『限りなく透明に近いブルー』を読んだことがあるのですが、その作品には正直言って好感を持てませんでした。
文学作品としての質は良いのかも知れないのですが、その頃の私は文章表現よりもストーリーの内容で評価する傾向にあったため、退廃的で暗い印象の内容に好感が持てなかったのです。
それは作者の村上龍がその作品を監督して映画化したとき、主演した俳優の三田村邦彦も私と同じ思いを抱いたようで、その映画に出演していても「こんなの文学じゃない!」と言って反発していたと、後にテレビ番組で語っていました。
また、私の場合、その村上作品を読む前に下村湖人の『次郎物語』を読んでいて、同じ青春小説でも、両作品のあまりの内容の違いに、村上龍の小説に好感が持てず、それが作者にも好感が持てなくなり、それ以後、村上龍の作品は読んでませんでした。
それから長い年数が経ってから、本書の『半島を出よ』という北朝鮮を扱った小説を出したと知り、これまで私が抱いていた村上龍のイメージと違うように感じて読んでみようと思ったのです。
それに北朝鮮は何かと話題になり、私も関心 があったので、いったい村上龍がどんな内容に仕上げているのかと興味が湧いてもいたからです。
それで本書を読み始めたのが2008年の夏からで、途中、他の本と併読しながら、去年の暮れ近くにやっと読み終えました。実に7年半近くかかってやっと読了したというわけです。
読んだ感想はと言うと 、私が今まで抱いていた村上龍のイメージがこの作品で払拭されました。
北朝鮮の反乱軍が九州に上陸して福岡を占拠していくという内容の小説ですが、実にリアルに描写したその表現力、文章力がすごいと思いました。
その描写力は、どうでもいいようなことまでも丹念に事細かく書き込んでいくことによってリアリティを増していて、単なる絵空事とは思えなくなるほどの現実感と実在感を得ました。
昔の私だったら、こんな分厚い2冊の本を読んでいると途中で読むのに飽いてしまうところなのですが、本書は読んでいて全く飽きませんでした。
それはその丹念な描写力による現実感と緊迫感に依るところが大きいのだと思います。
また、著者はこの作品の中で、北朝鮮人を日本人側から見た敵国人という書き方ではなく、北朝鮮人に対しても同じくその生活や人間性などをあくまでも日本人に対するのと同じ目線で丹念に描写しています。
私たち日本人からすれば北朝鮮という国は得体の知れない国であり、北朝鮮人もまた得体の知れない人間のように思ってしまいがちですが、著者は北朝鮮人もまた同じ人間という存在として描いています。つまり、単なる悪者として描いているわけではないということです。
そこがまたこの作品にリアリティを与えているところだと言えるでしょう。
それにしても、私のような素人が偉そうな言い方になってしまいますが、この作品で村上龍を見直しました。