2010年3月23日火曜日

美女いくさ

書名⇒美女いくさ

著者⇒諸田玲子

出版社⇒中央公論新社

分類⇒文学(歴史小説)


感想⇒一昨年頃、浅井三姉妹の長姉・茶々を主人公にした映画が公開されてましたが、この小説では末妹の小督(おごう)が主人公の物語です。

私が抱いていたイメージでは、戦国時代の女性というと、男の意のままに飾り物のような存在になる薄幸の姫か、嫉妬に駈られていがみ合う側妾を思い浮かべがちですが、本書ではそれらの固定観念を覆し、過酷な下剋上の時代を、生きるために戦い、家を守ってゆくという逞しい女人像を描いています。
確かに現代と違って戦国時代は、男はもちろん、女も強く逞しく生きてゆかなければならなかったのだろうと思います。
この小説では殊に、武将の妻たちの心の中にある雄々しさ、そして力強さと悲哀を見事な文章力で表わしています。

本書の著者は女流作家でありながら、男の作家にもひけを取らない戦国時代の歴史観と人物造形とを、流麗な文章によって描き切っているのが見事だと思いました。


 美女いくさ

美女いくさ




2010年3月6日土曜日

狂人日記

書名⇒狂人日記

著者⇒色川武大(いろかわ・たけひろ)

出版社⇒福武書店

分類⇒文学(私小説)


感想⇒本書は、幻覚や幻聴に苦しめられる主人公の内面を描いた純文学作品です。

著者自身、難病のナルコレプシー(眠り病)という精神の病に罹っていて、睡眠発作・脱力症状・幻視・幻聴・幻覚に終生悩まされていたということなので、この作品には著者の内面が反映されているのでしょう。

主人公が幻覚を見る場面はオカルト的でもあり、どこまでが現実でどこからが幻覚なのか判らないという不思議な感覚の読後感を持ちました。

そして、健常者と狂人との間の超えられない壁というものが感じられ、主人公が抱く絶対的な孤絶がひしひしと身に迫り、何とも切ない気持になりました。


 狂人日記

狂人日記