2014年6月22日日曜日

アルジャーノンに花束を

書名⇒ アルジャーノンに花束を

著者⇒ ダニエル・キイス

訳者⇒ 小尾芙佐

出版社⇒ 早川書房

分類⇒ 文学(SF小説)

感想⇒ 近頃、アメリカの作家のダニエル・キイスの訃報が報道されてました。それで今回はダニエル・キイスの著書の感想を書いておきます。
本書は 中編小説として発表された時にヒューゴ賞を受賞し、長編に改訂した本書でネビュラ賞を受賞している世界的に有名なSF小説です。SF仕立てになってますが、単なるSFとして面白い内容というより、いろいろと考えさせられる内容の本ですね。
考えさせられたのは、主人公のチャーリイ・ゴードンを取り巻く周囲の 人々の対応の変化でした。チャーリイが32歳になっても幼児並みの知能しかない時は、周囲の人々は彼をバカにし見下してはいても彼と親しく接していたのが、チャーリイが手術によって超知能を獲得してゆくと、そのあまりの頭の良さに彼から離れてゆき、チャーリイを孤独へと追いやっています。
チャーリイ自身も、低い知能の時は 人からバカにされても見下されていても、それをバカにされているとは思わず、仲の良い友達だと思っていたのが、高い知能を持つようになると、逆に周囲の人々を見下すようになっています。
 著者は知的障害は不幸で知能が高ければ幸せになれるのかということをこの小説で提示していますが、知的障害者から突然高知能者へとなった主人公の悲哀を通して、知的障害者を取り巻く社会環境の問題について考えさせられる作品でした。









2014年6月15日日曜日

白馬山荘殺人事件

書名⇒ 白馬山荘殺人事件

著者⇒ 東野圭吾

出版社⇒ 光文社

分類⇒ 文学(推理小説)

感想⇒ また東野圭吾氏の推理小説の読後感想を書いておきます。
本書は本格的な密室殺人推理であり、更にマザーグースの歌を使った暗号解読推理でもあります。
そのトリックもさることながら、登場人物にもそれぞれ個性的な特徴が工夫されていて、人物描写の妙にも感心した内容でした。この作者の作品にはいつも斬新なトリックが練られていて、読むのが楽しみになります。


白馬山荘殺人事件

白馬山荘殺人事件




2014年6月5日木曜日

奔馬

書名⇒ 奔馬

著者⇒ 三島由紀夫

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(長編小説)

感想⇒ 本書は『豊饒の海』シリーズの2巻目で、私は1巻目を読んでないので、作中に名前が出てくる清顕という人物がよく判らないですし、本書の登場人物たちとどういう関係にあったのかが判らないですが、魂の輪廻転生をテーマにした物語であるので、現実的な物語でありながらその現実の奥から立ち昇る神秘的な雰囲気が全編を覆っていて興味深く読みました。
特に私が注目したのは、本書の時代設定は第二次大戦前の、軍国主義が日本国中を覆っていた時代になっていますが、本書の主人公である飯沼勲の思想と行動は、そのまま本書の著者の思想の表われであるという点です。
主人公の勲が暗殺を決行したのに対し、本書の著者はそこまでの行動は起こさなかったんですが、勲が切腹して自害した通りに、自衛隊駐屯地内でクーデター決起の演説を終えた後に切腹して自害しています。
殊に、天皇を日本国民の長として尊崇し、その天皇の下に、万民が公平にその恩恵を受けるという、天皇を中心とした理想国家論を説く純粋な右翼思想は、作中の勲の口を通して、実は著者の思いを表わしたものなのだろうと思われます。
そういう意味で、物語の最後に勲が自害して終わる本書は、著者のその後の運命を予言あるいは予告した書とも受け取れる内容でした。
そしてもちろん本書において引き込まれたのはその文章表現でした。濃密にして鋭利な切れ味を示すその文体は、世界から高く評価されている文学の中の文学という印象を受けました。





奔馬/三島由紀夫

奔馬/三島由紀夫