書名⇒ 奔馬
著者⇒ 三島由紀夫
出版社⇒ 新潮社
分類⇒ 文学(長編小説)
感想⇒ 本書は『豊饒の海』シリーズの2巻目で、私は1巻目を読んでないので、作中に名前が出てくる清顕という人物がよく判らないですし、本書の登場人物たちとどういう関係にあったのかが判らないですが、魂の輪廻転生をテーマにした物語であるので、現実的な物語でありながらその現実の奥から立ち昇る神秘的な雰囲気が全編を覆っていて興味深く読みました。
特に私が注目したのは、本書の時代設定は第二次大戦前の、軍国主義が日本国中を覆っていた時代になっていますが、本書の主人公である飯沼勲の思想と行動は、そのまま本書の著者の思想の表われであるという点です。
主人公の勲が暗殺を決行したのに対し、本書の著者はそこまでの行動は起こさなかったんですが、勲が切腹して自害した通りに、自衛隊駐屯地内でクーデター決起の演説を終えた後に切腹して自害しています。
殊に、天皇を日本国民の長として尊崇し、その天皇の下に、万民が公平にその恩恵を受けるという、天皇を中心とした理想国家論を説く純粋な右翼思想は、作中の勲の口を通して、実は著者の思いを表わしたものなのだろうと思われます。
そういう意味で、物語の最後に勲が自害して終わる本書は、著者のその後の運命を予言あるいは予告した書とも受け取れる内容でした。
そしてもちろん本書において引き込まれたのはその文章表現でした。濃密にして鋭利な切れ味を示すその文体は、世界から高く評価されている文学の中の文学という印象を受けました。
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