2017年3月19日日曜日

勝っても負けても  41歳からの哲学

書名⇒ 勝っても負けても  41歳からの哲学

著者⇒ 池田晶子

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(随筆)

感想⇒ 著者の本は『14歳からの哲学』を読んで以来、その切れ味鋭い語り口が面白く、あれから何冊か読んでますが、本書も面白く読めました。

この著者の本が面白いのは、世の中で流行っていることや世間の人々から持て囃されていることに対して無条件に追従するのではなく、懐疑的立場から批評していくところにあります。

それは、「長いものには巻かれよ」という風潮や、自分で考えずに何でも他人の真似をし、世の中の動向に振り回される世間の風潮を、絶妙の文章力と哲学的論理力で批評し斬りまくっている爽快感にあり、そこに共感できるものがあるからです。

確かに世の中は流行を追いかける大衆の動きがあり、
それに乗り遅れないようにしようとする人たちがいて、
更に、それに乗らない人は見下されるような、そんな風潮にあります。

例えば、バレンタインデーにはチョコを贈り、
ホワイトデーにはお返しをするというのも、
菓子メーカーによって作られた流行であり、
大衆がそれに乗せられてしまっている現象ではないかと思いますね。

もちろん世の中の流行が全て悪いものという訳ではないですが、ただ世の大勢に無自覚に従うというのは、
時に愚かな生き方にもなってしまうのではないでしょうか。

ある人々から見れば著者の言ってることはひねくれているように見えるかもしれないですが、
世間で当たり前のこととして扱われていることを、
哲学者として、それらをひっくり返して自分で考える、
そういう生き方考え方を提示しているのが著者なのだと思います。

そういう哲学的論考を展開している本書なのですが、
哲学用語を使わず分かりやすい平易な文章で書かれたこの哲学エッセイは、しかし鋭く本質を暴いて見せています。
だから何度読んでも面白いのだと思います。










2017年3月8日水曜日

光の指で触れよ

書名⇒ 光の指で触れよ
 
著者⇒ 池澤夏樹

出版社⇒ 中央公論新社

分類⇒ 文学(家族小説)


感想⇒ 家族のそれぞれが自分探しをするという物語であり、
言うなれば家族の破滅と再生の物語とも言えます。

題材としては家族・家庭の危機という平穏ならざるテーマを扱っていますが、
物語は淡々と進んでおり、ストーリー展開としてはたいした起伏のない物足りない印象を持ちました。

また、本書ではレイキや精神世界とか、ヨーロッパのコミュニティ生活やエコなどの環境問題とか、恋愛、不倫など いろいろなものが盛り込まれていますが、しかしそれが却ってテーマが定まっていないようにも感じました。

そして、物語としては平坦過ぎてあまり心に響いてこなかったのも残念な点でした。

あと、本書では章によってそれぞれの登場人物の視点によって描かれていて、
そういう構成が新鮮な感じを受けましたが、
ただ、誰の視点で描かれた文章なのかよく分からなくなる部分もあって、
それが読んでいて少し混乱してしまうところでもありましたね。





[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

光の指で触れよ
価格:926円(税込、送料別) (2017/3/8時点)




2017年3月1日水曜日

遭難者の夢 -家族狩り 第二部-

書名⇒ 遭難者の夢 -家族狩り 第二部-  

 著者⇒ 天童荒太

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(社会小説)

感想⇒  随分ブログを休んでしまいましたが、久しぶりに読書感想を綴ってみたいと思います。
今回は以前本ブログで感想を書いたことのある『幻世の祈り』の続編になります。
本書では高校教師・巣藤浚介、刑事の馬見原、児童相談センター職員・氷崎游子それぞれが遭遇する事件と人間模様が描かれていますが、これら物語の登場人物たちは、微力ではあってもそれぞれに社会の問題を解決するために懸命に努力しているんですが、しかしその努力が社会に反映されていないというもどかしさを読んでいて感じました。
それはこの物語の中だけの話ではなく、現実の社会もまた同じように感じられるからです。
世の中を良くしようと努力している人は少なからずいると思いますが、それでも犯罪は減ることはなく、凶悪事件も頻発している現実があります。
そういう現実を写したものが本書だと言えるわけですが、重いテーマのため読んでいて何だかやるせない気分にもなってしまいます。
ただ、本書は社会問題をテーマにしていますが、サスペンス小説としての面白さもあり、私の場合、それがこの物語を読み進められる理由となっています。




[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]
遭難者の夢 [ 天童荒太 ]
価格:561円(税込、送料無料) (2017/3/1時点)