書名⇒ 壁
著者⇒ 安部公房
分類⇒ 文学(空想小説)
感想⇒ カフカの『変身』を思わせるような非現実的な夢のような小説です。
シュールレアリスム(超現実主義)の文学版と言える支離滅裂な内容でしたが、
その支離滅裂な所が面白かったですね。
例えば青年の恋人が自分とそっくりのマネキン人形と
半分ずつ合体していて、
時にはマネキンになったり恋人になったり、
あるいは青年の名刺が、片目で見ると
その青年自身に見え、片目で見ると名刺に見えたり、
あるいはまた、胸の中の砂漠を旅していると思ったら、
いつのまにか自分の部屋にいるといったように、
ストーリーに脈絡がなく、いきなり飛躍している所などは
まさに夢と同じです。
その非現実的な夢のような物語展開が異様であり、
その異様さが斬新で面白い所でした。
現実を超えた夢のような物語が惹かれる所以だと言えますが、
物語というよりも、シュールレアリスムによる文章表現であり、
その抽象的な文章表現が芸術としての味わいだと言えます。
それは同じシュールレアリスムの絵画の場合でも同じで、
シュールレアリスムの巨匠サルバドール・ダリの空想と現実の交叉した
非現実的でありながら、リアルな描写が現実感も与えている、
その現実とも非現実ともつかぬ一種異様な夢のような表現が
芸術としての味わいになっています。
それから、本書を読んでいると、
つげ義春の『ネジ式』などの漫画作品も思い出します。
つげ義春の漫画作品も夢のような現実のような一種異様な雰囲気を醸し出している
まさしくシュールレアリスムと言える作品であり、
そこに芸術的な味わいが感じられるわけです。
芸術としてのシュールレアリスムは文学にも絵画にも漫画にも
表現され得る表現方法だと言えますし、
現実離れした一種異様な雰囲気こそシュールレアリスムの魅力だと言えます。
そして内面世界を超現実的描写として表現するのがシュールレアリスムの技法だそうですが、
本書の中の、例えば、青年の胸の中に吸収された砂漠が
壁になり、その壁が成長してゆくうちに青年の体も壁になってしまうというのも、
その超現実的描写の中に寓意が込められているのではないかと思います。
とは言え、正直、絵画にしても漫画にしても文学にしても、
抽象的な表現は何を言いたいのか凡人である私にはよく分からないのですが、
あまり難しく考えないで、その現実を超えた夢のような表現を楽しめばいいのではないかと思います。
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