2013年11月27日水曜日

優しいおとな

書名⇒ 優しいおとな

著者⇒ 桐野夏生

出版社⇒ 中央公論新社

分類⇒ 文学(近未来小説

感想⇒人間の心の暗黒面を描いてきた著者が珍しく子供向けの作品を書いたのが本作です。
 近未来の渋谷に生きる孤児のイオンが、さまざまな人間や事件と関わってゆくうちに、人の愛、両親の愛というものを理解してゆくという物語なのですが、少年イオンは1人で路上生活をする子供であったため人の愛というものを信じてなかったのが、モガミ達の愛を、最後のところで理解し受け入れてゆく場面は感動的でしたし、嫌われてもなおイオンに愛を注ぐモガミにも感動しました。読後に救われた気持ちになる1冊です。

 優しいおとな/桐野夏生

優しいおとな/桐野夏生




2013年11月23日土曜日

置かれた場所で咲きなさい

書名⇒ 置かれた場所で咲きなさい

著者⇒ 渡辺和子

出版社⇒  幻冬舎

分類⇒ 文学(エッセイ

感想⇒ この本は去年ベストセラーになり話題になっていましたね。カトリックの聖職者として生きる著者の清心さが伝わってくる内容でした。
宗教的な本の中には高邁過ぎてなじめないものも多いのですが、本書は上から高説を垂れるのではなく、私たちの目線でわかりやすい言葉で書かれてあり、共感するところが多かったですね。
私はキリスト教の信者ではないですが、宗教性は抜きにして心にすんなり入ってくる内容でした。 


置かれた場所で咲きなさい/渡辺和子

置かれた場所で咲きなさい/渡辺和子



2013年10月21日月曜日

前巷説百物語

書名⇒ 前巷説百物語

著者⇒ 京極夏彦


出版社⇒  中央公論新社

分類⇒ 文学(時代小説)

感想⇒ 『巷説百物語』の後に出版されてますが、内容からすると、『巷説百物語』よりも前の物語という設定になっているようです。中編のそれぞれの題名には妖怪の名前がつけられてますが、妖怪が出てくる話かと思って読むと当てが外れると思います。しかし、妖怪の話ではないですが、妖怪変化のように見せかけたからくりを使った話が面白いですね。これも江戸の風情が伝わってくる物語で、独特の雰囲気が味わえました。

 前巷説百物語

前巷説百物語


2013年8月27日火曜日

ひとり日和

書名⇒ ひとり日和

著者⇒ 青山七恵

出版社⇒  河出書房新社

分類⇒ 文学(青春小説)

感想⇒ 今回読んだのは、数年前に芥川賞を受賞した作品で、20歳の女性が老女と暮らした日々を綴った内容です。
読んでみると、肩に 力が入らない脱力系の話で、気軽に読みやすいところが良かったですね。
特に何ということもない話なんですが、主人公が老女の元を去って1人暮らしを始めるときに、何とも言えない寂寥感 が込み上げてきました。この老女が私の母と重なったようで、もっと一緒に住んであげればいいのにと思ってしまったものです。
淡々とした書き方で 架空の話なのに現実感を与えてしまうというところにこの作家の力量が感じられます。

 ひとり日和/青山七恵

ひとり日和/青山七恵





2013年4月22日月曜日

SOSの猿

書名⇒ SOSの猿

著者⇒ 伊坂幸太郎

出版社⇒  中央公論新社

分類⇒ 文学(ファンタジー小説)

感想⇒ 全く別の2つの話が交互に進行してゆき、最後のところで、その2つの話がシンクロして1つの話になるという凝った趣向の内容には面白みがありました。
ただ、話の中に突然、孫悟空が出てきたりするのは現実なのか幻覚なのか判然とせず、今ひとつよく判らない内容の小説だなと思いました。
現実か幻覚か判然としない内容というのは、幻想小説なら味わいがあっていいのですが、この作品のような小説では、却って訳が判らない内容という感をうけてしまうものです。とは言え、この訳の判らないところがやはり面白かったと言える作品で、実験的な小説ではありました。
なお、この小説の分類はファンタジー小説としましたが、実際にはどれにも分類できない内容で困りました。それで、異論もあるかと思いますが、私的にはファンタジー小説としました。


SOSの猿

SOSの猿





2013年3月21日木曜日

儒教入門

書名⇒ 儒教入門

著者⇒ 土田健次郎

出版社⇒ 東京大学出版会

分類⇒ 哲学

感想⇒ 儒教というのは日本では過去の遺物と思われているようですが、日本人の精神的基盤として受け継がれてきたという歴史があるのも確かです。私はそういう日本人の思想的形成に影響を与えてきた儒教には以前から関心を持っていました。本書はそんな儒教の思想構造や歴史を分かりやすくまとめたもので、入門書として最適の書と言ってよいと思います。
たまにはこういう思想書を読んでみるのも新たな知識の発見があっていいものです。


儒教入門

儒教入門





2013年2月24日日曜日

巷説百物語


書名⇒ 巷説百物語

著者⇒ 京極夏彦

出版社⇒ 中央公論新社

分類⇒ 文学(時代小説)

感想⇒ 妖怪変化や亡者が現れる怪談話かと思って読み進んでいったら、実は怪異に見せかけた仕掛けを行なって事件を解決するという、いわば「スパイ大作戦」の江戸時代版といった内容の小説で、手の込んだ趣向が面白い作品でした。
このような小説は性急に結果を知りたいと思うよりも、ラストの事件やからくりの真相が明かされるまでの経緯を楽しむという読み方をした方がより楽しく読むことができるものです。
そういう意味では推理小説でも同じですが、この作品では登場人物たちの交す会話から江戸の風情や風習などが伝わってきて興趣溢れる内容になっていました。




2013年1月26日土曜日

ストロベリー・フィールズ



書名⇒ ストロベリー・フィールズ

著者⇒ 小池真理子

出版社⇒ 中央公論新社

分類⇒ 文学(恋愛小説)

感想⇒ 恋愛小説は掃いて捨てるほど書かれていて内容も陳腐なものが多いので、今までほとんど読んだことはありませんでしたが、この著者は人気作家なので1度は読んでみたいと思っていたので今回読んでみました。
恋愛小説への先入観で読み始めた本書でしたが、読み進めるうちに物語に引き込まれていきました。ただ甘いだけの恋愛小説ではなく、許されない恋愛への苦悩と、複雑な家庭内での夫や義理の娘への心の葛藤など、この主人公や家庭はこれからどうなるのか、という波乱の物語に魅せられていったからです。その息詰まるような緊迫感はサスペンス小説と言ってもよいくらいで、物語として楽しめる作品でした。
 ストロベリー・フィールズ

ストロベリー・フィールズ

2013年1月1日火曜日

全世界のデボラ

書名⇒ 全世界のデボラ

著者⇒ 平山瑞穂

出版社⇒ 早川書房

分類⇒ 文学(幻想小説)



感想⇒ 昔は幻想小説やファンタジー小説には映画のようなストーリー展開の面白さを期待して読んでいたものですが、特に幻想小説と銘打たれた類の小説は目まぐるしいストーリー展開がなく、難解な文章表現に阻まれてページを繰るのも遅れ気味になり、イライラするばかりでなかなか面白みを感じることができないでいました。
それが純文学の文章表現に惹かれるようになってからは、幻想小説の晦渋に満ちた文章こそ純文学であり、文学の中の文学と言えるのではないかという事に気がつくようになってきました。
それで本書ですが、幻想小説という体裁をとっていますが、その濃密に凝縮された文体こそ文学中の文学だと言えると思います。
またそれぞれの短編の物語設定もその視点が凝っていて、例えば『駆除する人々』では「悪魔」と呼ばれている化け物みたいな生物を役場の職員が職務として駆除作業をしているのですが、単に人間対化け物の戦いという視点ではなく、地方自治体としての問題点といった見方によって物語を展開しているなど、そのユニークな発想にも面白みを感じました。



全世界のデボラ

全世界のデボラ