2014年10月27日月曜日

中原中也詩集

書名⇒ 中原中也詩集

著者⇒ 中原中也

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(詩集)

 感想⇒ 私が中原中也の詩として最初に知ったのは、『汚れちまった悲しみに……』という詩です。
「汚れちまった悲しみに/今日も小雪の降りかかる/汚れちまった悲しみに/今日も風さえ吹きすぎる」と続くこの詩の鮮烈さに私は惹きつけられたものです。

詩の魅力とは、余計な文章をそぎ落とした短文の中に情景や心情を凝縮して表現しているところにあり、そこに心打たれ惹きつけられるのです。
文章表現を凝縮して組み立てる詩こそ文学の中の文学と言えるのではないかと思います。
 ただ、短い文章に凝縮する詩には状況説明文がないだけに、なかなか難解な表現になっているものも多く、本詩集にも理解できない内容のものもありますが、詩とは論理的に読み解くものではなく感じるものだと思いますし、心の琴線に触れたものに共感したり感動したりするのでしょう。
本作品がそういう作品だと言えます。






2014年10月18日土曜日

ソフィーの世界

書名⇒ ソフィーの世界

著者⇒ ヨースタイン・ゴルデル

訳者⇒ 池田香代子

出版社⇒ 日本放送出版協会

分類⇒ 文学(空想哲学小説)

感想⇒ 本書は1995年にベストセラーになって話題になった本で、私も以前読んだことがあり、今回読みなおしてみました。
本書はファンタジー小説の体裁をとりながら、哲学史の解説書ともなっていて、ファンタジーと哲学史の書が合体したような内容になっているのが斬新なアイディアだと思いました。
とかく哲学は一般人には難しくて無縁のような存在だと思われてますが、本書は哲学を一般人にも解りやすく親しみやすく工夫して書いてますので、哲学にはド素人の私にもよく理解できました。
本書を最初に読んだ頃は文学への関心が薄れていった頃で、思想書に関心が移っていった頃だったので、哲学の入門書として最適の本だったと思っています。
しかもファンタジー仕立てになっていてその中で哲学とは何かということが解るようになっているので読みやすく理解しやすい内容の本でした。
純粋に思想だけを学びたいという人にはファンタジーの部分は不要のように思いますが、文学書としての面白さも味わいたいという人には向いていると思います。






2014年10月5日日曜日

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

書名⇒ 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

著者⇒ 村上春樹

出版社⇒ 文藝春秋

分類⇒ 文学(長編小説)

感想⇒ 私は基本的に、話題になっている本はすぐには読まないようにしています。話題になっているからといってすぐそれに乗って読んでみると、読むほどの価値もない本だったということがあるので、そういう流行には乗らないようにしているのです。
それで、新刊を発表する度に話題になり騒がれる村上春樹ですが、これまで発表された著書も、私は随分あとになって読んでました。今回の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 も、去年国内で発売された時は、深夜に書店前に行列ができたというほどの騒ぎでしたが、私は買いませんでしたし、読みませんでした。
そして今年夏に英訳本が発売され、海外でも書店には徹夜組を含め、行列が作られる人気ぶりだったそうで、それほど騒がれ話題になっているので今回は私も読んでみました。
それで読んだ感想なんですが、はじめに持った感想は「この本のどこが面白いんだろうか?」というものでした。
私は純文学書を読む時はストーリーの面白さよりも文章表現の味わいに重点を置いて読むことにしているので、内容が面白くなくても、文章表現が素晴しければそれで満足するんですが、本書の場合はストーリー展開も面白くなくて、文章表現も特に感銘を受けるようなところもなく、登場人物のセリフもただキザなだけで深みが感じられず、結局「この本のどこがいいんだろうか?」という思いしか残りませんでした。本書よりも平山瑞穂の幻想小説の方がよほど文章表現も優れていて文学性が高いと思えるほどです。
もしかすると自分の文学的センスがおかしいのかと思ってインターネットで書評を探して見てみると、私と同じような感想を持っている人が多かったですね。
少し前に読売新聞に、本書が英訳刊行されたことについての記事が載ってましたが、その中に〈「拙い文章」、「耐え難い繰り返し」、「解決されない謎」などを批判する声も相変わらず少なくないが、一見平凡な文章、登場人物、プロットから創られた「物語」には「不思議な魅力」がある、というのが多くの評者の正直な感想のようである〉と書かれてました。
確かに以前読んだ著書にはその独特の物語性に不思議な魅力を感じたものもありましたが、今回はそういう不思議な魅力というものは感じられなかったですね。
また、村上春樹の本で特徴的な登場人物が語る入れ子構造のような別の物語というのが本書にもあり、本書では友人がその父親の若い頃の話を詳細に語っているんですが、父親の若い頃の話を、息子が自分の体験のようにそんなに細かいところまで覚えているのかな? という疑問も湧き、そういうところも話としての不自然さを感じました。
村上作品は国内よりも海外での人気が高いようですが、海外では実際どういう評価をされているのだろうかと思ってネットで調べてみたんですが、有名なミュージシャンのパティ・スミスの書評にしても、高評価なのか低評価なのかわからないような書き方をしていて、評価として高いのか低いのか判然としませんでした。
まあ、海外で人気が高いのは、もしかすると翻訳家の力量によるものでないかとも思ってしまいますが、評論家や海外のファンがどういう評価をしているにしても、私にとっては特に読むほどの本ではないなというのが感想でした。






色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年 / 村上春樹 ムラカミハルキ 【単行本】