2014年7月27日日曜日

ミーナの行進

書名⇒ ミーナの行進

著者⇒ 小川洋子

出版社⇒ 中央公論新社

分類⇒ 文学(少女小説)

感想⇒  岡山から兵庫の伯母の家に預けられた主人公の少女が、いとこのミーナと共に体験する子供時代の話ですが、特に起伏のある物語ではないですが、主人公の少女たちが過ごしてゆく子供時代を、穏やかな筆致で綴っていて、その細やかな表現に心安まる思いがしました。
 刺激のある物語だけでなく、この作品のような平穏な内容の物語もたまにはいいものです。




 ミーナの行進/小川洋子

ミーナの行進/小川洋子

2014年7月21日月曜日

空より高く

書名⇒ 空より高く

著者⇒ 重松清

出版社⇒ 中央公論新社

分類⇒ 文学(青春小説)

感想⇒ 本書の内容は昔流行ったテレビの青春ドラマを彷彿とさせる青春小説で、いわゆるクサイ感動ものという感じがする作品ではありますが、著者のそのストーリー展開のうまさと軽やかな文章の運びに唸らされる面白さでした。
著者の文体は濃密さや研ぎ澄まされた感じではなく、至って軽いノリの文章なのですが、平板ではなく、いわばコロコロと転がるボールが意表外のところに転がってゆくような、そんな読者の心の裏をかくようなリズムと動きを持った文章であり、しかもユーモアにあふれていて、読んでいて実に楽しい小説でした。
別の言い方をすれば飽きの来ない文章であり、この文章表現はこの著者にしか書けないと思わせる個性を感じました。



空より高く/重松清

空より高く/重松清




2014年7月12日土曜日

ぼっけえ、きょうてえ

書名⇒ ぼっけえ、きょうてえ

著者⇒ 岩井志麻子

出版社⇒ 角川書店

分類⇒ 文学(ホラー小説)

感想⇒ 本書の著者は以前テレビのワイドショーやバラエティ番組に出ているのを見たことがあり、下ネタばかり言っているキャラクターだったのですが、小説を読んでみるととてもそんな下品キャラとは思えない文章力に驚いたものです。
表題作の題名は岡山の方言で 「とても、怖い」という意味だそうで、娼婦の一人語りに妙味がありました。
ホラーというと、私は怪物や幽霊・妖怪などが出てくる物語が思い浮かびますが、本書の作品には、主人公が主観的に感受する幻視の場面は出てきても、客観的な怪物や霊や妖怪が出てくるわけではなく、主題は生きている人間による殺人や不倫など、現実的な内容が主題になっています。
本書で描かれてある恐怖とは、その現実の人間の所業にこそあるということのようです。
本書に納められてある作品には、どれも人間の業や性(さが)を垣間見せる物悲しさとやるせなさ、切なさがあり、現実の人間の所業と心理にこそ戦慄を感じさせられました。
また、現実と非現実の境目があいまいになる表現技法が秀逸ですね。単にホラー小説というよりも純文学といっても良い読み応えのある小説でした。なお、表題作は第6回日本ホラー小説大賞を受賞しています。




 ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子

ぼっけえ、きょうてえ/岩井志麻子

2014年7月6日日曜日

猿丸幻視行

書名⇒ 猿丸幻視行

著者⇒ 井沢元彦

出版社⇒ 講談社

分類⇒ 文学(伝奇推理小説)

感想⇒  本書は推理小説ではあるんですが、SFじみた設定でもあり、内容も、殺人事件は起きても、主題は歴史暗号ミステリーとなっていて異色の推理小説でした。
過去 の人間の精神との同化現象により、過去幻視効果があるという新薬実験の実験台となった大学院生が、明治時代の民俗学者・折口信夫(おりぐちしのぶ)と同化し、その折口信夫の目を通して、猿丸太夫が遺したとされる古歌の暗号解読を試みてゆくというストーリーなのですが、私にはあまり関心のない分野についての話なので、物語としては面白いとは思えませんでした。マニアックな人には面白かったかも知れないですね。




 猿丸幻視行 新装版/井沢元彦

猿丸幻視行 新装版/井沢元彦