2016年4月9日土曜日

遠い時間

書名⇒ 遠い時間

著者⇒ 横山伸子  

出版社⇒ 宝文館出版

分類⇒ 文学(詩)

感想⇒ 久しぶりに詩を読んだので感想を記します。
一読して、幻想的な情景を特徴とする不思議な感覚の詩集だと思いました。
ただ、詩というのは小説と違って説明の部分を削ぎ落としているので、意味がよく解らないところも多いんですが、この作品にはそういった意味などを不要とする不可思議な抒情性がよく伝わっており、それだけで詩の楽しさを堪能することができました。
詩というものは直感的に伝わるものですから、説明などは不要であり、余計な説明を削ぎ落としているからこそ得られる文学の余韻というものが胸の内にいつまでも残るのだと言えます。






 



2016年1月16日土曜日

半島を出よ

書名⇒ 半島を出よ

著者⇒ 村上龍

出版社⇒ 幻冬舎

分類⇒ 文学(近未来小説)

感想⇒  少し遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
かなり長い間ブログ更新が止まってしまいましたが、これからも読書感想を書き続けていきますので、よろしくお願い致します。
では今年最初は村上龍の『半島を出よ』上下巻の感想です。
村上龍と言えば、私は若い頃にデビュー作で芥川賞受賞作の『限りなく透明に近いブルー』を読んだことがあるのですが、その作品には正直言って好感を持てませんでした。
文学作品としての質は良いのかも知れないのですが、その頃の私は文章表現よりもストーリーの内容で評価する傾向にあったため、退廃的で暗い印象の内容に好感が持てなかったのです。
それは作者の村上龍がその作品を監督して映画化したとき、主演した俳優の三田村邦彦も私と同じ思いを抱いたようで、その映画に出演していても「こんなの文学じゃない!」と言って反発していたと、後にテレビ番組で語っていました。
また、私の場合、その村上作品を読む前に下村湖人の『次郎物語』を読んでいて、同じ青春小説でも、両作品のあまりの内容の違いに、村上龍の小説に好感が持てず、それが作者にも好感が持てなくなり、それ以後、村上龍の作品は読んでませんでした。
それから長い年数が経ってから、本書の『半島を出よ』という北朝鮮を扱った小説を出したと知り、これまで私が抱いていた村上龍のイメージと違うように感じて読んでみようと思ったのです。
それに北朝鮮は何かと話題になり、私も関心 があったので、いったい村上龍がどんな内容に仕上げているのかと興味が湧いてもいたからです。
それで本書を読み始めたのが2008年の夏からで、途中、他の本と併読しながら、去年の暮れ近くにやっと読み終えました。実に7年半近くかかってやっと読了したというわけです。
読んだ感想はと言うと 、私が今まで抱いていた村上龍のイメージがこの作品で払拭されました。
北朝鮮の反乱軍が九州に上陸して福岡を占拠していくという内容の小説ですが、実にリアルに描写したその表現力、文章力がすごいと思いました。
その描写力は、どうでもいいようなことまでも丹念に事細かく書き込んでいくことによってリアリティを増していて、単なる絵空事とは思えなくなるほどの現実感と実在感を得ました。
昔の私だったら、こんな分厚い2冊の本を読んでいると途中で読むのに飽いてしまうところなのですが、本書は読んでいて全く飽きませんでした。
それはその丹念な描写力による現実感と緊迫感に依るところが大きいのだと思います。

また、著者はこの作品の中で、北朝鮮人を日本人側から見た敵国人という書き方ではなく、北朝鮮人に対しても同じくその生活や人間性などをあくまでも日本人に対するのと同じ目線で丹念に描写しています。
私たち日本人からすれば北朝鮮という国は得体の知れない国であり、北朝鮮人もまた得体の知れない人間のように思ってしまいがちですが、著者は北朝鮮人もまた同じ人間という存在として描いています。つまり、単なる悪者として描いているわけではないということです。
そこがまたこの作品にリアリティを与えているところだと言えるでしょう。
それにしても、私のような素人が偉そうな言い方になってしまいますが、この作品で村上龍を見直しました。





半島を出よ(上) [ 村上龍 ]
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半島を出よ(下) [ 村上龍 ]
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2015年9月2日水曜日

ホーラ -死都-

書名⇒ ホーラ -死都-

著者⇒ 篠田節子

出版社⇒ 文藝春秋

分類⇒ 文学(幻想小説)

感想⇒ タイトルの「ホーラ」というのはギリシャ語で、「その地域の中心」という意味だそうですが、この物語の舞台はエーゲ海の小島で、そこへ逃避行のような旅行でやってきた不倫関係にある日本人の男女が、「ホーラ」と呼ばれる廃墟から発せられる魔力によってなのか、不可思議な出来事に遭遇してゆくというストーリーになっています。
ホラー小説ですが、恐怖が主題ではなく、不倫関係にある主人公の罪の意識や心の葛藤が、超常現象やギリシャ正教の信仰、そして舞台となっているその小島の混沌と堕落の歴史などと絡んで描き出されているところにこの作品の文学的香りが感じられます。
以前にも書きましたが、私にとって幻想小説における幻想的な描写こそ文学的な表現が最大に発揮されているところで、文章表現の技工が凝らされた文学を堪能できる場面でもあります。
本書の著者もその文体や文学的表現の確かさによって幻想場面や主人公の心の動きを見事に描き出していて、文学としての面白さを味わうことができました。
ストーリーとしては最後は釈然としない終わり方ではありますが、映画などのようなすっきりした終わり方ではなく、必ずしもハッピーエンドとはならない現実を描いていて、それがよりリアルな読後感を残しています。








2015年8月17日月曜日

幻世の祈り   -家族狩り 第一部-

書名⇒ 幻世の祈り   -家族狩り 第一部-

著者⇒ 天童荒太

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(社会小説)

感想⇒ 本書はエンターテイメントの形をとっていますが、近年ますます社会問題化している家庭内の問題、少年犯罪をテーマとして取り上げ、問題提起した作品です。
それだけに、現代社会のあり方について考えさせられる内容でした。
テーマとして見るなら、本書はまだシリーズの第1作であるため、物語の中で問題提起している段階ですが、著者の理念なり思想なりがその隙のない研ぎ澄まされたような文章表現と共に、読む側に訴えかけられており、その緊迫した思いが直に伝わってくる作品でした。
そして多様な登場人物たちがそれぞれに織りなす人間模様が、重層的に深みのある物語を構築していて、それがエンターテイメントとしての面白さを醸し出していました。







2015年6月22日月曜日

ゴールデンボーイ

書名⇒ ゴールデンボーイ

著者⇒ スティーヴン ・キング

訳者⇒ 浅倉久志

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(サスペンス小説)

感想⇒ スティーヴン・キングは「ホラー小説の帝王」と呼ばれ、その作品はどれもベストセラーになり、映画化もされています。
本書に納められている作品の中では、『刑務所のリタ・ヘイワース』が『ショーシャンクの空に』という題で映画化されていますし、私は知らなかったのですが、本書の表題である『ゴールデンボーイ』も映画化されているということです。
私はスティーヴン・キングの作品は映画の方はいくつか観たことがありますが、原作を読むのはこの作品が初めてです。
映画を観た感想としては、それほど面白いとも思わなかったので、原作の方もあまり期待はしてなかったのですが、本書を読んでみて、その文章力と構成力に感服しました。
内容としては『刑務所のリタ・ヘイワース』は無実の囚人が長い歳月をかけて脱獄する話で、『ゴールデンボーイ』は元ナチ戦犯の老人と少年の交流から、その2人がそれぞれ別々に殺人事件を起こしてゆくというストーリーですが、その緻密な文章と、日常の身近で瑣末な事象をきめ細かく積み上げてゆき、しかも、その中に、結末へと導く伏線を張ってゆくという卓抜な構成力には驚きました。
スティーヴン・キングは単なるホラー作家ではなく、文学的力量もすごいなと感心したものです。
ただ、本書の中で難を言えば、『ゴールデンボーイ』で、老人と少年がそれぞれ別々に浮浪者を殺害してゆく展開について、殺人に到る動機となる心境の過程が描かれておらず、そのため、殺人事件へと展開するストーリーは唐突な感じを受けました。
その点を除けば、文学作品として素晴らしいと思いました。












2015年5月16日土曜日

沙門空海唐の国にて鬼と宴す

書名⇒ 沙門空海唐の国にて鬼と宴す

著者⇒ 夢枕獏

出版社⇒ 徳間書店

分類⇒ 文学(伝奇小説)

感想⇒  真言宗の開祖・空海を主人公にした小説というと正統派の歴史小説を思ってしまいますが、本書は著者の空想力が最大に活かされたエンタメ系伝奇小説となっています。
本書の内容は、遣唐使の留学僧として唐の国に渡った若き修行僧・空海が、官人の橘逸勢と共に妖しの事件に挑んでゆくという物語で、中国の史実とも関わる壮大な作品です。
物語は著者の脚色によるものですが、歴史上の人物との関わりをうまく使っていると感じます。
また、空海と橘逸勢は、『陰陽師』シリーズにおける安倍晴明と源博雅のような関係のようで、橘逸勢が頼りない人物として描かれているところがご愛嬌という感じがしますね。
面白さの中心は何といっても妖しに対して空海が呪術で対決する場面が最大の見どころでした。

また、楊貴妃の物語のところでは、年老いた楊貴妃の姿に思わず憐憫の情を感じたほどで、人生の盛衰に感情移入してしまう物語でした。
本書は全4巻の大作で、私は実は2009年1月から読み始めたんですが、途中他の本を読んでたりしてたので、全4巻読み終えるのに6年半近くもかかってしまいました。
全4巻もある話なので、正直、途中で中だるみするような感じも受けましたが、読み終えて、エンタメ小説として読み応えのある作品だったと思いました。

















2015年4月13日月曜日

愛する人達

書名⇒ 愛する人達

著者⇒ 川端康成

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(恋愛小説)


感想⇒ 川端康成の文学を端的に表現するならば、「美しい文学」という言葉に尽きると思います。
そして美しい日本語で紡がれているその文体の特徴は淡々とした文章表現にあり、物語を客観的に淡々と述べてゆくところに、この作家の持ち味があり、それがまた味わい深い文体になっていると言えます。
エンタメ系ではない純文学だから当たり前とは言えますが、大仰な表現や感情を過度に熱くするような書き方ではなく、その淡々とした中に人間関係の機微がうまく表現されていて、文学の名人・達人の技がさりげなく表わされていると感じられます。

本書の短篇集にはさまざまな形の愛の物語が描かれていますが、いずれも美しい文章によって表現されていて、どこまでも美しさの読後感が余韻として残る作品でした。
ただ、こういう正統派の美しい純文学ばかり読んでいると物足りなさを感じてしまいますが、斜に構えたような書き方の作品の合間に読むとひときわ新鮮に感じるものです。