2010年6月18日金曜日

蛇にピアス

書名⇒ 蛇にピアス

著者⇒ 金原ひとみ

出版社⇒ 集英社

分類⇒ 文学(青春小説)



感想⇒ 本書は数年前、芥川賞を20歳で受賞して話題になった作品ですが、私は正直言って、この種の小説は読む気が起きなくて、今まで読んでませんでした。

作品の文学的考察よりも、作家自身の話題の方が先行していて、話題作りの受賞ではないのだろうかと思っていたからなのです。

しかし、話題にもなったことでもあるし、1度読んでおいた方が良いだろうと思って今回読んでみました。

作品の内容としては、一言で言えば、村上龍の同じく芥川賞受賞作『限りなく透明に近いブルー』の女性版といったところでしょうか。

主人公たちのアンダーグラウンドな日常を描いた小説ですが、本書では刺青とピアスに情熱を燃やす生きざまに新鮮味がありました。

ただ、猥雑で低俗な風俗を扱った小説は好きではなく、関心もないので、あまり期待しないで読んでいったのですが、意外にも、読み進めるうちに、物語の中に引き込まれていきました。
やはり、刺青とピアスの世界が私のような平凡以下の人間には今まで体験したこともない非日常的な描写でもあり、それだけに衝撃的でもあったのです。

物語の世界としては、よく構成されているなあと、感心して読んでました。

ただ、本書の登場人物たちの生きざまには、共感も共鳴もできませんでしたが。


蛇にピアス

蛇にピアス


2010年5月27日木曜日

きれぎれ

書名⇒ きれぎれ

著者⇒ 町田康

出版社⇒ 文藝春秋

分類⇒ 文学(私小説)



感想⇒ 本書の著者はロック・ミュージシャンで詩人でもあり小説家でもあるという多芸多才な才能の持ち主であり、この作品は芥川賞を受賞した作品ですが、あまりに才能が先走っているのか、読んだ私があまりに鈍才すぎるのか、話の内容としては支離滅裂で、何だか取りとめのない、訳のわからない内容でした。正直言って、芥川賞受賞作という事には首を傾げてしまいました。

ただ、文体はハチャメチャでも、文章のごろ合わせや滑稽さが抜群で面白く、内容の支離滅裂なところが却って新鮮でもあり革新的でもあって、そこが、伝統的・保守的な文学の常識を覆すという新しい試みとして評価されたのではないかと思います。

従来の枠にはまった文芸作品に飽き足らなくなった時に読めば、確かに面白い作品だと言えます。
 

 きれぎれ

きれぎれ




2010年5月13日木曜日

朝顔男

書名 ⇒ 朝顔男

著者 ⇒ 唐十郎

出版社 ⇒ 中央公論新社

分類 ⇒ 文学(奇譚小説)



感想 ⇒ 主人公の青年が、老人から預かった朝顔の“左巻きの秘密”に導かれて物語が進展してゆくという内容の小説ですが、正直言って訳の判らない内容でした。しかし、妙に面白い小説でもありました。

まず文章が変わっていて面白く、登場してくる人物も変な人間が多く、それも面白い点でした。

また、物語の中で、長崎県の大瀬戸港や池島炭鉱が出てくるのも興味深い点でした。長崎県とは関わりがないように見える著者が、どうして大瀬戸港や池島炭鉱を物語の中の1つに選んだのかという事に興味を惹かれました。


 朝顔男

朝顔男



2010年3月23日火曜日

美女いくさ

書名⇒美女いくさ

著者⇒諸田玲子

出版社⇒中央公論新社

分類⇒文学(歴史小説)


感想⇒一昨年頃、浅井三姉妹の長姉・茶々を主人公にした映画が公開されてましたが、この小説では末妹の小督(おごう)が主人公の物語です。

私が抱いていたイメージでは、戦国時代の女性というと、男の意のままに飾り物のような存在になる薄幸の姫か、嫉妬に駈られていがみ合う側妾を思い浮かべがちですが、本書ではそれらの固定観念を覆し、過酷な下剋上の時代を、生きるために戦い、家を守ってゆくという逞しい女人像を描いています。
確かに現代と違って戦国時代は、男はもちろん、女も強く逞しく生きてゆかなければならなかったのだろうと思います。
この小説では殊に、武将の妻たちの心の中にある雄々しさ、そして力強さと悲哀を見事な文章力で表わしています。

本書の著者は女流作家でありながら、男の作家にもひけを取らない戦国時代の歴史観と人物造形とを、流麗な文章によって描き切っているのが見事だと思いました。


 美女いくさ

美女いくさ




2010年3月6日土曜日

狂人日記

書名⇒狂人日記

著者⇒色川武大(いろかわ・たけひろ)

出版社⇒福武書店

分類⇒文学(私小説)


感想⇒本書は、幻覚や幻聴に苦しめられる主人公の内面を描いた純文学作品です。

著者自身、難病のナルコレプシー(眠り病)という精神の病に罹っていて、睡眠発作・脱力症状・幻視・幻聴・幻覚に終生悩まされていたということなので、この作品には著者の内面が反映されているのでしょう。

主人公が幻覚を見る場面はオカルト的でもあり、どこまでが現実でどこからが幻覚なのか判らないという不思議な感覚の読後感を持ちました。

そして、健常者と狂人との間の超えられない壁というものが感じられ、主人公が抱く絶対的な孤絶がひしひしと身に迫り、何とも切ない気持になりました。


 狂人日記

狂人日記


2010年2月18日木曜日

声に出して活かしたい論語70

書名⇒声に出して活かしたい論語70

編者⇒三戸岡道夫

出版社⇒栄光出版社

分類⇒道徳

感想⇒本書は儒教の祖とされる孔子の言行録『論語』を現代的に解説した本です。

孔子の残した言葉は、その後、弟子達によって編纂されて、現代にまで伝えられ読み継がれてきましたが、なぜ孔子の教えが現代でも読み継がれているのか。それは、論語には人が人として生きるべき道が説かれてあるからだろうと思います。

論語というと、古臭い封建的な思想だとして敬遠される事が多いと思いますが、論語を読んでみると、古臭さを感じません。

特に孔子の思想の中核を成す「仁」及び「忠恕」とは真心と思いやりの事を差し、孔子はこれが最も人間にとって重要な心であり、生き方だと説いています。

この教えは孔子の時代から遥かな時を経た現代においても、最も人間にとって重要な思想であり生き方である事にいささかの違いもないでしょう。

それは古代の時代も、科学が発達した現代においても、変わる事のない人間としての本質であり、人間としての正しい心の在り方と生き方だからであると思います。

時代が変わっても人間の本質と根本的な生きるべき道は変わりようがないと言えますし、変わりようがないからそれが人間の本質だとも言えると思います。

確かに孔子の思想は封建主義社会に利用された面もあるとは思いますが、本質的な部分は封建主義とは無縁だと言えるでしょう。

私は保守主義者や右翼主義者ではありませんが、孔子の思想は、思想的立場に関わりなく人間に必須の思想だと思っています。

今回は堅い内容になってしまいましたが、本書は現代世相に適った良書だと言えます。


 声に出して活かしたい論語70

声に出して活かしたい論語70







2010年2月11日木曜日

死霊

書名⇒死霊

著者⇒埴谷雄高(はにや・ゆたか)

出版社⇒講談社

分類⇒文学(形而上小説)

感想⇒この本は10年以上前にも読んだ事がありますが、その頃は忙しい日々を送っていたのでゆっくり読む暇がなく、覚えたての速読で読み飛ばしてしまい、内容がよく判らないまま読了してしまった事があります。
そのうち読み直してみたいと思っている間に月日が過ぎてしまいましたが、一昨年から再読を始め、
今度は文章を噛みしめるように熟読・精読して、他の本と同時進行でゆっくり読み進め、2年がかりでやっと読み終えました。

今回、熟読・精読したとは言え、それでもよく判らない内容でした。

本書の内容は、共産主義思想の活動家たちの地下活動とその中で交される議論を主たる題材としていて、特に議論の場面で数十ページにもわたる独白を中心とした饒舌なセリフが延々と続くなど、かなりマニアックな小説です。

その議論の中では、「無限大」、「存在」、「宇宙」、「虚体」、「自同律の不快」等々といった深遠かつ壮大な形而上学的思索が繰り広げられていて、この辺りの文章は極めて難解です。
それこそ1行ずつの文章を噛み潰すようにして熟読・精読したのですが、それでもよく判らない内容でした。

そのようによく判らない内容ではありますが、その文章表現には魅了されました。
この濃密で重厚な文体は、文学好きな人にはたまらないだろうと思います。

また、「あっは」とか「ぷふい」といった個性的な笑い声や舌打ちのセリフもなかなか凝っていて面白く感じました。

本書は1976年、日本文学大賞を受賞しています。

なお、この小説は著者のライフワークで、執筆途中で何冊か刊行されていますが、私が読んだ本は1976年版なので、その後の章が入っていません。そのうち完全版を読もうと思っています。

それにしても、ドストエフスキーなどの作品もそうですが、このような重厚な本を読み終えた時というのは、フルマラソンを完走したような気分です。疲れますが、爽快な気持ちでもあります。


 死霊 1

死霊 1



2010年2月5日金曜日

賢い生き方・愚かな生き方

書名⇒賢い生き方・愚かな生き方

著者⇒加藤諦三

出版社⇒三笠書房

分類⇒心理学

感想⇒本書は人間関係における賢い生き方を、心理学の立場から説いた本です。

著者は、他人に気に入られるように自分を抑え我慢をして人付き合いをする人を「愚かな人」とし、他人からの評価を気にせずに自分の生きたいように生きる人を「賢い人」と定義していますが、勿論、著者が論じているような生き方ができればそれに越したことはないに決まっています。

しかし実際の対人関係の中にあっては、著者が論じているほど簡単なものではないというのが実感するところです。他人に左右されずに自分らしく生きるのが最も幸福な生き方であることは判り切ったことですが、それが簡単にできないからこそ苦労をする訳です。

本書では賢い生き方の結論付けはしていますが、そのための具体的な方法論を示唆していないようなので、人生の指針としてはあまり役に立たない内容だと思えました。

2010年1月31日日曜日

あなたの毎日をキラリと輝かせる155の方法

書名⇒あなたの毎日をキラリと輝かせる155の方法

著者⇒キム・ゴード

訳者⇒加藤タキ

出版社⇒大和書房

分類⇒人生論


感想⇒ 本書では、日常生活の中で遭遇する様々なストレスや意気消沈やジレンマといった心のマイナス状態を解消し、新鮮な喜びと輝きを湧き起こさせる方法が述べられています。

その方法とはほんのちょっとしたささやかなものであり、誰にでもできる簡単なものばかりです。
誰にでも簡単にできるから良いのですが、ただ、あまりに簡単なことなので、こんなことで人生を輝かせることができるんだろうか、とも思いました。

この種の本は題名だけ見ると、つい魔法みたいな方法が書かれてあるのではないだろうか、と過大に期待して読むため、肩すかしを喰わされることも多いものですが、やはり、自分自身のちょっとした心の工夫も必要なのでは、と読む度に考えさせられます。

2010年1月25日月曜日

14歳からの哲学 - 考えるための教科書 -

書名⇒14歳からの哲学 - 考えるための教科書 -
著者⇒池田晶子
出版社⇒トランスビュー
分類⇒哲学

感想⇒文筆家の池田晶子さんは2007年2月に、46歳の若さで腎臓がんのため亡くなりました。

その池田さんが確立したジャンルが「哲学エッセイ」でした。その中の本書は、中学生にも哲学的な考え方を身に付けさせるよう書かれた本です。
中学生のために書かれた本ですが、大人が読んでも侮れない内容となっています。

まず文章が非常に論理的です。そして考察する対象も「自分とは何か」「死をどう考えるか」「心とはどこにあるか」「社会」「善悪」「自由」「宗教」「人生の意味」「存在の謎」といった人間存在の根本命題を扱っていて、これらは大人でも容易には答えを出せない命題ばかりです。

これら人生の根本命題を、著者は論理的に考察しつつ、未だ哲学的に考える事に対して慣れていないと思われる14歳の読者を、哲学的考察の方法論へと導いています。

本書では、哲学的考察の方法論を説いても、上記の命題について断定するのではなく、あくまでも示唆だけに留め、後は読者が自ら考えるように仕向けています。

軽薄なものに流されやすい世相にあって、自分の頭で徹底的に人生の意味を考え抜く事を提示する本書は、時機に適った良書だと言えます。



14歳からの哲学 考えるための教科書

14歳からの哲学 考えるための教科書




2010年1月12日火曜日

ご挨拶

近頃は本を読まない人が増えているそうですが、私には本を読まない人生はあり得ないことです。
本を読まない人生ほど無味乾燥で味気ない生き方はないでしょう。
読まなければならない本はまだまだ無限に近いほどあります。
これからも読書人生は終わりません。

当ブログでは私の読書感想、書評を書き綴ってまいります。
どうぞよろしく。