2014年11月11日火曜日

家族シネマ

書名⇒ 家族シネマ

著者⇒ 柳美里

出版社⇒ 講談社

分類⇒ 文学(私小説)

感想⇒ この著者の作品について司馬遼太郎は「研ぎ澄まされた文章」と評価したそうですが、確かにナイフのような鋭さのある文章です。
また、「詩的」とも評されているように、その文章には冗長さがなく、ナイフで切り刻んだような短い文によって表現されていて読み進める度に疾走感が伝わってきます。

そんな文章によって書かれたこの小説は、すでに崩壊している家族がかりそめの幸せな家族をカメラの前で演じるという喜劇とも悲劇ともつかない家族の虚像を炙り出していて、いかにも現代社会を活写した作品だと言えます。

私は本作品をそれなりに評価していますが、 ただ、ネットで本書のレビューを見ると、拒否反応を示す感想が多かったですね。本書は芥川賞を受賞していますが、受賞作としてふさわしくないという意見も書かれてありました。
確かに現代的な軽文学とでも言えそうな軽い感じの小説ですし、また、レビューにもありましたが、著者が演劇をやっていただけに、喧騒に満ちた舞台の芝居のような展開でもあり、このような面に拒否反応を示す人も多いのかもしれません。
それでも私は、村上春樹の『多崎つくる』よりは本書の方が文章表現も優れているし内容も面白いと思ってますので、この作品を評価します。





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2014年10月27日月曜日

中原中也詩集

書名⇒ 中原中也詩集

著者⇒ 中原中也

出版社⇒ 新潮社

分類⇒ 文学(詩集)

 感想⇒ 私が中原中也の詩として最初に知ったのは、『汚れちまった悲しみに……』という詩です。
「汚れちまった悲しみに/今日も小雪の降りかかる/汚れちまった悲しみに/今日も風さえ吹きすぎる」と続くこの詩の鮮烈さに私は惹きつけられたものです。

詩の魅力とは、余計な文章をそぎ落とした短文の中に情景や心情を凝縮して表現しているところにあり、そこに心打たれ惹きつけられるのです。
文章表現を凝縮して組み立てる詩こそ文学の中の文学と言えるのではないかと思います。
 ただ、短い文章に凝縮する詩には状況説明文がないだけに、なかなか難解な表現になっているものも多く、本詩集にも理解できない内容のものもありますが、詩とは論理的に読み解くものではなく感じるものだと思いますし、心の琴線に触れたものに共感したり感動したりするのでしょう。
本作品がそういう作品だと言えます。






2014年10月18日土曜日

ソフィーの世界

書名⇒ ソフィーの世界

著者⇒ ヨースタイン・ゴルデル

訳者⇒ 池田香代子

出版社⇒ 日本放送出版協会

分類⇒ 文学(空想哲学小説)

感想⇒ 本書は1995年にベストセラーになって話題になった本で、私も以前読んだことがあり、今回読みなおしてみました。
本書はファンタジー小説の体裁をとりながら、哲学史の解説書ともなっていて、ファンタジーと哲学史の書が合体したような内容になっているのが斬新なアイディアだと思いました。
とかく哲学は一般人には難しくて無縁のような存在だと思われてますが、本書は哲学を一般人にも解りやすく親しみやすく工夫して書いてますので、哲学にはド素人の私にもよく理解できました。
本書を最初に読んだ頃は文学への関心が薄れていった頃で、思想書に関心が移っていった頃だったので、哲学の入門書として最適の本だったと思っています。
しかもファンタジー仕立てになっていてその中で哲学とは何かということが解るようになっているので読みやすく理解しやすい内容の本でした。
純粋に思想だけを学びたいという人にはファンタジーの部分は不要のように思いますが、文学書としての面白さも味わいたいという人には向いていると思います。






2014年10月5日日曜日

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

書名⇒ 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

著者⇒ 村上春樹

出版社⇒ 文藝春秋

分類⇒ 文学(長編小説)

感想⇒ 私は基本的に、話題になっている本はすぐには読まないようにしています。話題になっているからといってすぐそれに乗って読んでみると、読むほどの価値もない本だったということがあるので、そういう流行には乗らないようにしているのです。
それで、新刊を発表する度に話題になり騒がれる村上春樹ですが、これまで発表された著書も、私は随分あとになって読んでました。今回の『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』 も、去年国内で発売された時は、深夜に書店前に行列ができたというほどの騒ぎでしたが、私は買いませんでしたし、読みませんでした。
そして今年夏に英訳本が発売され、海外でも書店には徹夜組を含め、行列が作られる人気ぶりだったそうで、それほど騒がれ話題になっているので今回は私も読んでみました。
それで読んだ感想なんですが、はじめに持った感想は「この本のどこが面白いんだろうか?」というものでした。
私は純文学書を読む時はストーリーの面白さよりも文章表現の味わいに重点を置いて読むことにしているので、内容が面白くなくても、文章表現が素晴しければそれで満足するんですが、本書の場合はストーリー展開も面白くなくて、文章表現も特に感銘を受けるようなところもなく、登場人物のセリフもただキザなだけで深みが感じられず、結局「この本のどこがいいんだろうか?」という思いしか残りませんでした。本書よりも平山瑞穂の幻想小説の方がよほど文章表現も優れていて文学性が高いと思えるほどです。
もしかすると自分の文学的センスがおかしいのかと思ってインターネットで書評を探して見てみると、私と同じような感想を持っている人が多かったですね。
少し前に読売新聞に、本書が英訳刊行されたことについての記事が載ってましたが、その中に〈「拙い文章」、「耐え難い繰り返し」、「解決されない謎」などを批判する声も相変わらず少なくないが、一見平凡な文章、登場人物、プロットから創られた「物語」には「不思議な魅力」がある、というのが多くの評者の正直な感想のようである〉と書かれてました。
確かに以前読んだ著書にはその独特の物語性に不思議な魅力を感じたものもありましたが、今回はそういう不思議な魅力というものは感じられなかったですね。
また、村上春樹の本で特徴的な登場人物が語る入れ子構造のような別の物語というのが本書にもあり、本書では友人がその父親の若い頃の話を詳細に語っているんですが、父親の若い頃の話を、息子が自分の体験のようにそんなに細かいところまで覚えているのかな? という疑問も湧き、そういうところも話としての不自然さを感じました。
村上作品は国内よりも海外での人気が高いようですが、海外では実際どういう評価をされているのだろうかと思ってネットで調べてみたんですが、有名なミュージシャンのパティ・スミスの書評にしても、高評価なのか低評価なのかわからないような書き方をしていて、評価として高いのか低いのか判然としませんでした。
まあ、海外で人気が高いのは、もしかすると翻訳家の力量によるものでないかとも思ってしまいますが、評論家や海外のファンがどういう評価をしているにしても、私にとっては特に読むほどの本ではないなというのが感想でした。






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2014年9月22日月曜日

幽霊男

書名⇒ 幽霊男

著者⇒ 横溝正史

出版社⇒ 角川書店

分類⇒ 文学(推理小説)

感想⇒ 江戸川乱歩つながりで今回は横溝正史の読後感想を書きます。
この本はその奇々怪々な題名に惹かれて書店で買ったものですが、江戸川乱歩と同じくおどろおどろしく猟奇的な雰囲気で楽しめる内容でした。
その作風は江戸川乱歩の怪奇趣味の雰囲気よりも更に残虐性があり、そして理論的な味わいがありました。
そして登場する名探偵といえば江戸川乱歩には明智小五郎があり、横溝正史には金田一耕助があります。
金田一耕助については昔テレビで放送してたドラマのシリーズで古谷一行が演じてたキャラクターがイメージとしてあったので、そのキャラをイメージしながら読んでいったものです。
本書でも、ボサボサの髪によれよれの着物と袴姿という個性的キャラで登場してますが、ただ、本書では個性的特徴が充分に描かれてなかったので、そのキャラを楽しめなかったのが残念でした。
江戸川乱歩の場合は怪奇的雰囲気で盛り上がったところで急展開して尻すぼみの感じで終わるものもあるのですが、横溝正史のは理論的にしっかりした構成になっていて、破綻のない終わり方をしているところが良い読後感を持てるところだと言えます。










2014年9月8日月曜日

影男

書名⇒ 影男

著者⇒ 江戸川乱歩

出版社⇒ 春陽堂書店

分類⇒ 文学(推理小説)

感想⇒ 今回も江戸川乱歩の読書感想を書いておきます。今回は『影男』です。
この本を最初に読んだのは小学生の頃で、子供向けに書かれたものでした。
いくつもの偽名を持ち、弱みを持つ富豪を強請って大金をせしめて生きている影男が主人公で、相手を破滅させるまで大金を巻き上げるということはしないし、しかもルパンのように弱者を救ったりもする侠盗みたいなところのある人物なので、犯罪者ではあっても憎めないキャラだと思いましたし、どちらかというと好感をもって読んでいきました。
ただ、後半はその影男が幻想的な仕掛けが設置された地下のパノラマ館みたいなところに入っていって探検していく場面が続くんですが、子供の頃読んだ時はこれがなかなか幻想的な雰囲気で子供心にその不思議な感じにワクワクしながら読んでいったものです。
ですが、大人になってから読んだ時は、話の筋としては何だかバランスが悪いというか、「なぜそこでパノラマ館みたいなところの描写が延々と続くんだ?」という評論家目線での考えが先に浮かびました。まあ、それでもそこの部分はそれはそれで面白かったですが。
このパノラマ館というのは江戸川乱歩にとってかなり興味があったもののようで、他にも『パノラマ島奇談』などの作品にも書いていて、空想の中で遊んでいるという感覚がありましたね。
その幻想的なパノラマ館で探検をしていった影男ですが、最後のところに我らが名探偵・明智小五郎が登場して影男はあっけなく逮捕されてしまいます。名探偵登場といっても、ここで明智探偵が出てくる必要はないように思ってしまいますが。
主人公はあくまでも影男であり、最後まで影男が活躍する内容にしていた方が自然であり、面白かったのではないかと、大人になってからはそういう感想を持ったものです。
まあ、江戸川乱歩の作品にはこういう急展開の内容がよく見受けられますし、それが江戸川乱歩らしさなのかも知れません。
推理小説と銘打たれてはいますが、この小説の面白さは影男が冒険するところとパノラマ館での幻想的な描写だといってよいでしょう。それこそが江戸川乱歩の作品の楽しみ方だと言えます。
そういう意味での乱歩らしさという点で、本作品は面白い作品ではありました。








2014年8月28日木曜日

黄金仮面

書名⇒ 黄金仮面

著者⇒ 江戸川乱歩

出版社⇒ 春陽堂書店

分類⇒ 文学(推理小説)

感想⇒ 今回も 江戸川乱歩の小説の感想を書きます。
この本は私が小学生の頃、学校の図書館から借りて読んでました。仮面を着けた怪人が事件を起こすという奇怪な雰囲気の内容に胸踊らせて読んだ記憶があります。その頃は、探偵小説・推理小説というものには必ず仮面をかぶった怪人や変装した犯人が出てくるものと思い込んでたものです。少年探偵シリーズやルパン・シリーズでそう思い込んでたようです。
この作品は同じ江戸川乱歩の作でも少年探偵団のシリーズではないですが、黄金の仮面をかぶった窃盗犯が暗躍し、名探偵・明智小五郎が対決するという内容に子供の頃はワクワクして読んだものです。
大人になってから子供向けではない方の 本を読んでみましたが、推理小説として読むと面白みがないですね。作者の江戸川乱歩も本作品を「通俗物だから」と自嘲気味に語っていたそうなので、満足した作品ではなかったようです。
本作品では日本の名探偵・明智小五郎とフランスの怪盗が対決するという内容で、その黄金仮面の正体がアルセーヌ・ルパンだったというので興味深かったんですが、人を殺さないルパンが、相手が日本人だからという理由で明智小五郎を殺そうとしたのはルパンらしさがなくなっていて釈然としなかったものです。
大人になってからよりも子供の頃読めば面白い作品だと言えるでしょう。




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2014年8月15日金曜日

一寸法師

書名⇒ 一寸法師

著者⇒ 江戸川乱歩

出版社⇒ 角川書店

分類⇒ 文学(推理小説)

感想⇒  私が小学生の頃は、学校の昼休みにはよく図書館に行って本を借りてましたが、その頃よく借りて読んでたのが江戸川乱歩の少年探偵シリーズやコナン・ドイルのホームズ・シリーズ、それにルブランのルパン・シリーズでした。
その中でも特に面白いと思って読んでたのが江戸川乱歩の作品でした。
江戸川乱歩の小説は、同じ探偵小説・推理小説といってもドイルやルブランと違って理知的なトリックや推理よりもおどろおどろとした怪奇趣味の雰囲気に彩られていて、子供の頃はそれが楽しくわくわくして読んでいたものです。
大人になってからも、若い頃は江戸川乱歩の作品に傾倒していた時期があり、殆どの作品は読みました。
その中の1つがこの『一寸法師』です。その後、推理小説・ミステリー小説への興味がなくなって長い間それらの分野の小説を読んでませんでしたが、近頃、久しぶりにこの作品を読み返してみました。
猟奇的なバラバラ殺人に、犯人とおぼしき醜怪な一寸法師のようなこびとの暗躍、そしてそれを追う私立探偵・明智小五郎。これだけ揃うとまさに江戸川乱歩ワールドですね。若い頃はその物語の世界に没頭して妖しい雰囲気を堪能していったものです。
ただ、今回読み返してみると、以前のようには楽しむことはできませんでした。やはりこういう分野に興味が なくなったということが大きいと思いますが、この作品の場合はおどろおどろしさだけで、推理小説の眼目であるトリックに快心のものがないということが挙げられます。
この作品だけに限らず、江戸川乱歩の作品には 推理小説としては駄作あるいは失敗作も多々あるようで、斬新なトリックを目当てにして読むと期待を裏切られることが多いです。
それよりも、江戸川乱歩の作品の場合は、やはりその一種独特の文体とそれによる怪奇趣味の雰囲気こそが魅力となっています。トリックよりもおどろおどろしい雰囲気を楽しむというのが江戸川乱歩の正しい読み方だと言えるのではないかと思います。



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2014年8月7日木曜日

立原道造詩集

書名⇒ 立原道造詩集

著者⇒ 立原道造

出版社⇒ 角川春樹事務所

分類⇒ 文学(詩)

感想⇒  私はこれまで文学というとほとんど小説ばかり読んできて、文学といえば小説というイメージしかわかなかったんですが、それが、少し前に、部屋の整理整頓をしていたら昔の公務員試験の通信講座で使った教材が押入れの奥から出てきて、懐かしいのでその中の国語の教材を読んでたら、教材として詩が載っていたんですが、その詩に感銘を受けて、文学として詩も素晴らしいという思いにかられてしまい、その勢いでこの詩集を読んでみたというわけなのです。
その作品は透き通るような澄明さに満ちており、清々しさを覚える読後感を持ちました。
現代詩はとかく難解なものが多いようですが、本作品は自然の風景を己の心情にからめて、清らかな文章によって天然自然の美しさを表現しようとしています。
それは前衛的な詩人からすればあまりに伝統的あるいは保守的な詩型ではありますが、文学という原点に立ち返って見るならば、この詩集はこれこそ文学であり、それも正統の文学の形であると思います。



 新品本/立原道造詩集 立原道造/著

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2014年7月27日日曜日

ミーナの行進

書名⇒ ミーナの行進

著者⇒ 小川洋子

出版社⇒ 中央公論新社

分類⇒ 文学(少女小説)

感想⇒  岡山から兵庫の伯母の家に預けられた主人公の少女が、いとこのミーナと共に体験する子供時代の話ですが、特に起伏のある物語ではないですが、主人公の少女たちが過ごしてゆく子供時代を、穏やかな筆致で綴っていて、その細やかな表現に心安まる思いがしました。
 刺激のある物語だけでなく、この作品のような平穏な内容の物語もたまにはいいものです。




 ミーナの行進/小川洋子

ミーナの行進/小川洋子